2000-09-09 快楽中枢への誘(いざな)い―ピカチューはレバー遊びに夢中―
学校の図書館で怪しい本を借りてきてしまいました。中原雄二著(科学警察研究所)「薬物乱用の本――覚せい剤からシンナー・大麻まで――」(研成社,1983)という本。この本の中に「快楽中枢への刺激実験」という話があったのだが,ちょっと(だけ)すごいので紹介します。<同書 p.33 薬物乱用と薬物依存>より。
一九五〇年代、米国のオールズ教授はラットを使い、行動発現の本源を見いだす研究を行なった。図2・1のようにラットの脳の特定の部位に電極を植え込み、ラットがレバーを押すと短い時間弱い電流が流れ、特定部位(神経)が刺激されるようにした。すると、ラットは寝食を忘れてレバーを押し続けて、際限なくこの刺激を追い求める行動を発現した。この現象は、あたかも脳の中に快楽の中枢が存在し、この刺激がラットを魅惑し続けたかのように思われる。これは、薬物乱用により薬物依存に陥ったヒトが、あらゆる犠牲を払って薬物を自己摂取することによく似ている。
つまり「オールズ教授がラットのデリケートな場所を発見した。」という話なのです。その「特定部位」とやらを探し当てるために,教授が何百回ラットの脳ミソに電極を抜き差ししたのかは分かりませんが,きっと部位を特定したときの氏の喜びようは,ラットが悶える姿よりも激しかったことでしょう。ところで,某ガールズは大学の心理学の講義で,この実験映像を見たことがあるのだそうです。氏の話によれば,ラットは初めレバーを押すと快楽中枢が刺激されることを知らないそうです。でもしばらく動き回っているうちに偶然レバーに触れて,その瞬間全身をピクッとさせます。そんなことを数回経験するうちに,ラットはレバーを押すと気持ちいいということに気付いて,ついには物凄い速さでレバーを連打し始めるそうです。こうしてラットはレバー操作に夢中になっているうちに,体力を消耗し切って死んでしまうのだそうです(よくウェブチャットで更新ボタンを連打する人がいますが,あれはレバー操作と同等の動作をしているものと思われます)。
さて,市内某所にはレバー操作に夢中になっている妖怪がウジャウジャいますが,今度遭遇する機会があったら頭に電極が刺さっていないかよく観察してみることにしますね。それからレバー操作に魅惑し続けている人を発見したら,「押し過ぎに注意」という注意書きを貼ってあげようと思います。これで多い日でも安心です。ちなみに,ぼくのはレバーじゃなくて電子スイッチ(しかもチャタリング防止回路付き)なのでそのような配慮は不要です(ふめいすぎ)。
補足説明
「レバー」という言葉が沢山出てきました。もしかしたらレバーの意味を取り違えている人がいるかもしれないので補足説明しておきます。文中の「レバー」というのは,電気回路の開閉器(機械的なスイッチ)のことです。スイッチにはさまざまな種類がありますが,オールズ教授が実験に使用したレバーというのは,現在のマイクロスイッチに近いものだと思われます。マイクロスイッチの特徴は,小さな力で押すことができるということです。ところで,マイクロスイッチを見たことがない人は,どうして小さな力で押すことができるのか分からないと思います。そこで私の部品箱からマイクロスイッチを含めた数種類のスイッチを見繕って実物を撮影してみました(撮影にはフラットベット型スキャナを使ったので,おかしな方向に影が付いています。気にしないように)。
上段から説明しますと,左から2個が「押しボタンスイッチ」,中央の1個が「スライドスイッチ」,右から2個が「トグルスイッチ」です。そして下段にあるのがマイクロスイッチです。このマイクロスイッチは,金属製の柄がテコの原理でオレンジ色のボタンを押す仕組みになっています。つまり柄が長ければ長いほど,小さな力で回路の開閉ができるというわけです。今回撮影したものは比較的小型のスイッチですが,もちろん大型のものも市販されています。