2022-06-12  某河川敷―生きながらにして死んでいる―

5月中旬,市内某河川敷を調査してきました。

バスで行く某河川敷

その河川敷は市内のとんでもない僻地にあります。「市境」とでも言うのか,大雑把な住所ですら地図を見ないと分からない。

河川敷に行く方法ですが,ほとんどの人は,自家用車あるいは自転車で行きます。自宅から徒歩で行く人はまずいない。最寄りの市街地は2kmほど離れた場所にあります。ごく一握りの人は,自宅から歩いて辿り着くことも可能でしょうけれど,自分の家から歩いて来たなんて言っている人を私は見たことも聞いたこともありません。

さて今回,私は路線バスで行ってみることにしました。自宅から2km先のバス停から僻地へ向かうバスに乗車。僻地のバス停に到着したら,今度は堤防上の道路を1km歩きます。

歩く距離は片道だいたい3kmですが,往復だと6kmになります。歩き続けるわけではないので体の疲れは少ないのですが,バスの移動時間を合わせると費やす時間が長くなる印象。

幽霊たちが徘徊する空間

私が某河川敷に到着したのは,正午すぎでした。すでに河川敷には辺りを徘徊する老人たちの姿が。

この河川敷に虹色業界人が集まるようになって,四半世紀が経ちます。当時50代だった人も70代になっているわけで年々,高齢化が進んでいるのです。

おそらく常連だからだと思うのですが,人間も服も紫外線劣化が進んでいるのか,何から何までも分解されてボロボロになっている。見た目はお化けみたいなのですが,実年齢は若いのかもしれません。

衝撃的だったのは,2年前に調査したときに遭遇した中村くん(私が勝手にそう呼んでいるだけの人)が今回もいたことです。

「よりによって,どうして今日もこの人がいるんだろう。まさか幽霊?」なんて思いました。

私は河川敷を歩きながら,「もしかしたら人間,生きながらにして死んでいる状態が存在するのではないか」と考えてしまいました。ここに集まっている老人たちは生身の人間のはずだけど,あてどもなくさ迷うという意味では幽霊と大差ない。

こんな場所に屯するような生活をしていると,だれもが幽霊や妖怪になってしまうのでしょう。「調査が済んだらさっさと退散しないとね」と私は心に決めました。時刻は13時半,帰ることにしました。

バス待合所の噂

河川敷の最寄りのバス停は,バス路線の終点です。回転場と呼ばれているらしい。バス停には,屋根付きの小屋(待合所)が併設されています。

数年前,待合所内で熱中症と思われる人が発見され,救急車で運ばれたそうです。その人は日中,河川敷で日焼けをしていた虹色業界人だそうで夕刻,待合所のベンチの上で人知れずぐったりしていたらしいのです。

前回,中村くんに遭遇したとき,氏はそんな話をしていました。この人がなぜ詳しい経緯を知っているのか,なぜ初対面の私にそんな場違いな話をしたのか,ちょっと不気味に思っていました。

私はバス待合所に入って気付きました。

「この待合所のベンチで死んでいた人って中村くん,あなた自身だったんじゃないの?成仏できずにいまも河川敷をさ迷い続けている。私があなたにできることは,何もないわね」なんて妄想しながら私は到着したバスに乗り込んだのでした。

おやおや最後,漫画家のつのだじろう氏の作品にでも出てきそうな話になってしまいましたね。

バス待合所の噂の真相は,私には分かりません。真相なんて言っても,たぶん大した話ではない。さようなら。