2003-11-16 ばい菌部屋報告8―後編―
<続き>
「若さ」を消費する少年
虹色業界人たちは布団が敷かれた暗闇の中で,ばい菌の培養に耽っていました。私はそれとなく観察するために少し離れた布団でゴロゴロすることにしました。布団が不潔なことは百も承知ですが,だからといっていつまでも中腰姿勢でいたのでは不審すぎるのです。そうやって観察を続けていると某少年がこちらにやってきて,あろうことか私の隣の布団に横たわりました。少年は私の様子を伺っているようでした。
私は少し緊張しました。「もし唐突に手が延びてきたら何て言おうか。『お兄さん調査中だから邪魔しないでね』と誤魔化そうか」などと対策を考えていたら,少年はかなりはっきりした声で「ぼくじゃだめですか」と話し掛けてきました。私は調査員であることを明かすことができず「いま来たばかりだからもうちょっと様子見してからね」などと意味不明な返答をしてしまいました。お話してみると,少年はどうもこのばい菌部屋で浮き気味なのが気になるらしい。話が弾みそうな雰囲気だったので場所を変えてお話することにしました。
少年はまだ業界デビューして3週間しか経っていないそうです。しかもいきなりばい菌部屋がデビュー場所だそうで,いまは市内の全ばい菌部屋を攻略中なのだとか。私は「アナタまだ10代でしょ。こんなところに入り浸っていたらダメでしょ。『若さ』って消費されてしまうものなのよ」と,先生のような口調でお説教してしまいました。少年は紫煙が大好きらしい。私とお話している間も引っ切り無しに煙草を吸っていました。しかもお酒もよく嗜むそうです。私は「お酒はちょっと飲むけど,タバコは吸わんです」と言ったら「それぜったい人生,損してる」とまで言われてしまいました。私はあえて反論しませんでしたけれど価値観の違いに驚きました。
ラガーマン登場。でもこの子おかしいゾ
時刻は午前1時を過ぎていました。少年はもう帰ると言うので私はばい菌部屋の出入り口まで,少年を見送りました(まったく何をしているのやら)。休憩室で過ごしすぎたから気づかなかったのだが,いつの間にかばい菌部屋の総人数は15人を超えていました。私は調査を再開しました。改めて観察してみると通路をウロウロしている野郎系の子が1人いました。全身に筋肉の服を纏っているような肉付きで見た目はラガーマンのようでした。どうやら本物の体育会らしいのです。でも様子がどこかおかしく言葉が通じない雰囲気でした。ラガーマンはだれとでも「おさかん」らしく,そのうちパパの餌食になってしまいました。どう見ても危険印のパパとばい菌の培養をしていたのです。
私は急に現実に引き戻されたような気がしました。ここはばい菌部屋なのです。ここでは「もっと楽におさかんしたい」という虹色業界人たちの巣窟なのです。こう考えてみると,おかしいのはラガーマンではなくてむしろ私の方なのです(「いまさら気づいたの?」なんて言わないでください)。ばい菌部屋の帰り道,私は虹色業界人の生態調査の総括をしなければならない時期だと悟りました。虹色業界人と妖怪との関係をよく整理しておく必要があると思ったのです。また研究課題が一つ増えたようですね(ふめい)。私の調査活動はまだまだ続きそうです。オラオラ(再三ふめい)。