2021-08-09  駅前便女物語―リハビリ妖怪「クララ」の伝説―

某日,久しぶりに駅前便所を調査していたら,妖怪に追い掛けられました。

「この人,よっぽど目が悪いのね。私を近くで見たらなかなかの化け物なのにね」と思いながら,私はターミナルビル内の衣料品店に逃げ込みました。服屋さんは背の高い棚がたくさん置かれているので,見晴らしが悪く避難場所として最適なのです。

無事,妖怪から逃れることに成功したわけですが,私はふと「クララ」のことを思い出しました。

クララとは一体誰なのでしょうか。

便所のクララとは

便所のクララとは,2000年ごろに駅前便所で幅を利かせていた妖怪の一人です。年齢は65歳くらい。

後天的な原因だと思うのですが,クララは足が不自由で杖を突きながら歩いていました。クララは若い子が好みらしい。普段は便所近くのベンチにじっと腰掛けていますが,便所に若い子が入るとゆっくりと立ち上がり,のそのそと便所に出向いていたのです。

しかし,如何せん一連の動作が鈍すぎるため,若い子の動きにはとてもついて行けません。クララが便所に辿り着く前に,若い子は便所から出て来てしまう始末。クララは,残念そうな顔をしながらベンチに引き返していたのです。

某パパの話に依ると,クララは朝から晩まで駅前便所に出ていたらしい。クララは「ベンチから立ち上がる,便所まで歩く,便所からベンチに戻る,ベンチに座る」という動作を何度も何度も繰り返していたのです。

クララの伝説

それから私は駅前便所から疎遠になっていました。クララを初めて目撃してから3年ほど経った頃でしょうか。

ある土曜日の夕刻,私は久しぶりに駅前便所を調査することにしました。

便所前のベンチには,クララの姿がありました。私は,「この人まだいたのね」と思ったわけですが,同時にクララが杖を持ってないことに気づきました。

便所に若者が入ったかと思った矢先,私は目の前の光景を疑いました。

クララは杖を使うことなくすっと立ち上がり,便所に向かって行ったのです。動作は以前とは比較にならないくらい素早く,小走りすらしているように見えました。(どこまで本当なのやら。)

日頃,若い子を追い掛け回しているうちに,足取りがしっかりしたとしか思えない。リハビリ妖怪の伝説が生まれた瞬間が,そこにはあったのです。

クララのその後ですが,まったく記憶にない。2007年頃には消えていたはず。死んだのかもしれません。(←最後の最後で突き放し方が酷い。)

おまけ

便所の個室に覗き穴らしきものがありました。

この個室はふたつ並んでいるので,壁の先も個室。

穴の裏側には,便座クリーナの説明書きが貼られていましたが,無残にも剥がされていました。ありがちな便所系の闇です。