2004-07-26 駅前便女物語―パパはなんでもお見通し―
某日,市内駅前便所を調査してきました。私はその日,始めて某パパとお話しました。某パパは数年前から駅前便所に通っていたそうですが,私は一度も某パパの存在を認識したことがありませんでした。見た目はヒトですが,もしかしたら妖怪を通り越した存在なのかもしれません。少し目を離すと空間に馴染んでしまうような,気配があまり感じられない方だったのです。それでもパパは既婚であり「孫」までいるそうですよ。いやはや大往生なのですね(ふめい)。
犯人はだれだ
某パパとお話している最中,便所ではいつもの光景が繰り広げられていました。ひっきりなしに便女が便所に入ったり出たりしていたのです。パパは一人の便女を指差しながら,私にこう言いました。
パパ 「個室の落書きを見たことがあるかい。落書きはあの子が書いているんだよ」
パパがなぜ落書き犯の正体を知っているのか,とても不思議でした。私は理由を尋ねてみました。
パパ 「だって自分の特徴が書いてあるよ。どんな服を着ていて,どんな鞄をさげているって事細かに書いてある」
パパは便所の落書きを解読していたのです。私は驚嘆しました。パパは何でもお見通しなのですね。私も落書きがあることは知っていましたが,真剣に読んだことはありませんでした。便所の碑文に秘められた謎を見落としていたのです。私は「調査員失格だな」と思いました。
便所の個室を緊急調査
さてそうやって悲観している場合ではありません。落書きは本当に詳しい自己紹介文なのでしょうか。私は一旦パパとお別れし,個室の落書きを調査することにしました。
個室にはいくつかの落書きがありました。どれが某便女の落書きなのでしょうか。片っ端から読まなければならないのかと思いきや,自己紹介文はすぐに見つかりました。その落書きは極太の油性ペンで堂々と書かれていたのです。公共施設だというのに,なんという暴挙でしょう。もっとも便器と癒着している類いの人が,その程度の逸脱ぶりで収まるのは奇跡的なのかもしれません(なぞ)。
パパからの贈り物
私は落書きの調査を終え,便所を出ました。するとすでに某パパの姿はありませんでした。「あれは幻だったのだろうか」そんなことを考えていたら,常連さんの一人が私に缶コーヒーを手渡しました。「これどうしたんですか」と尋ねると,某パパが帰る前に私に買っておいてくれたのだそうです。
私は懐かしい記憶が湧き出していました。便所や公園で「お話だけでもおねがいします」という意思表示をするために,缶飲料を手渡すのはよくある作戦です。なぜなら「いらない」と冷たくあしらうわけにはいかないし,飲んでいる間その場所に足止めできるからです。私もデビュー当時はこの方法で何度も足止めされたもので(←何を自慢しているのやら),あの頃を思い出してしまったのです。もちろん最近さっぱりご無沙汰でしたよ。賞味期限が切れると,そういった細かいところから寒くなってくるものなのです。
私が缶コーヒーを飲んで「んー,マンダム」と言ったかどうかは定かではありません(←それはコーヒーじゃなくて男性化粧品の台詞)。もちろん,ちゃんと缶に変な穴が空いていないか確かめてから飲みましたよ。どこの業界も同じでしょうけれど,「ボクはすべてのヒトたちからアイされている。いまステキなキブン」なんて(ふめい)ふしぎぶりを発揮しているようでは,向精神薬やら脱法薬物の入ったコーヒー,ジュース,桃の天然水(なぞ)を喰らわされてしまいます。そんな恥ずかしい失敗がパパたちは大好きです。パパたちが棺桶に入るまで「あの子は昔ね」なんて指差され,肩身の狭い思いをし続けなければならなくなるのです(←どこまで本当なのやら)。